前田利家

まえだとしいえ

前田利家

前田利家|派手好きの傾奇者から、金銭を徹底管理する「算盤武将」へと変貌した槍の又左

加賀百万石の礎を築いた前田利家(まえだとしいえ)は、豊臣政権において徳川家康と並ぶ「五大老」の一人として天下の政治を牽引した戦国武将です。若い頃は六メートルを超える長槍を振り回す「槍の又左」として武勇を轟かせましたが、彼の生涯を紐解くと、単なる猛将とは異なる極めて現実的な一面が浮かび上がってきます。 利家の本質は、派手な出で立ちを好む反面、金銭の出入りを自ら算盤(そろばん)を弾いて徹底的に管理する「財務管理者」としての能力にありました。 織田信長の不興を買って一度は織田家を追放されるという不遇の時代を乗り越え、いかにして豊臣秀吉の最大の盟友となり、家康さえも恐れる巨大な政治的抑止力へと成長したのか。その波乱の生涯と、加賀藩の圧倒的な財力を生み出した独自の経済観念について解説します。

基本情報

名称
前田利家
読み
まえだとしいえ
生没年
1539年?〜1599年(天文8年?〜慶長4年)
時代
戦国時代〜安土桃山時代
主な拠点
尾張荒子城、越前府中城、金沢城
主君
織田信長、豊臣秀吉、豊臣秀頼
氏族
前田氏
関連人物
まつ(芳春院)、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康
茶坊主斬殺による織田家追放と、実力での帰参

01

茶坊主斬殺による織田家追放と、実力での帰参

若い頃の利家は、派手な着物に身を包んで異風を好む「傾奇者(かぶきもの)」であり、血気盛んな青年でした。織田信長の赤母衣衆(あかほろしゅう・親衛隊)として活躍していましたが、弘治3年(1557年)から永禄2年(1559年)頃、信長の同朋衆(茶坊主)である拾阿弥(じゅうあみ)を信長の面前で斬殺するという大事件を起こします。 原因は、拾阿弥が利家の妻・まつ(芳春院)の親が遺した笄(こうがい・髪かざり)を盗み、さらに利家を侮辱したことでした。信長は激怒し、利家は死罪こそ免れたものの、織田家から追放されて浪人の身となります。 しかし利家は諦めず、桶狭間の戦いや森部の戦いに勝手に参戦し、敵の首級を挙げるという力技で自身の武功を証明しました。信長はその執念と実力を認め、利家は自身の力のみで再び織田家への帰参を勝ち取ったのです。

算盤を弾き、小遣い帳をチェックした「財務官僚」

02

算盤を弾き、小遣い帳をチェックした「財務官僚」

利家が加賀百万石と呼ばれる巨大な大名家を構築できた理由は、槍の武功だけではありません。彼は戦国武将には珍しく、金銭の計算に極めて長けており、常に算盤を持ち歩いていたと伝えられています。 利家の金銭感覚は徹底していました。妻のまつや侍女たちの小遣い帳に至るまで自ら目を通し、無駄遣いがあれば厳しく叱責しました。また、金(きん)を小さな塊にして袋に入れ、それを常に持ち歩いて家臣への恩賞や急な出費に備えるという、実利主義的な資金管理を行っていました。 「金があれば他人も恐れ敬うが、貧乏になると世間は恐れなくなる」という利家の言葉が残されています。浪人時代に極貧を味わい、周囲の手のひら返しを経験した彼にとって、裏切らないのは武力よりも「冷徹な経済力」であったことが窺えます。

徳川家康を力で押さえ込んだ「最後の抑止力」

03

徳川家康を力で押さえ込んだ「最後の抑止力」

豊臣秀吉が天下を統一した後、利家は豊臣政権の重鎮として、豊臣秀頼の傅役(もりやく・教育係)を任されます。慶長3年(1598年)に秀吉が没すると、徳川家康が専横を始め、豊臣家内部の武断派と文治派の対立が激化しました。 この一触即発の事態において、唯一、家康に正面から対抗し、力で押さえ込むことができたのが前田利家でした。利家は諸大名から絶大な人望があり、家康も彼が存命の間は武力行使に出ることができませんでした。利家が病に伏せると、家康自らが利家の屋敷へ見舞いに訪れていますが、この時、利家は布団の下に抜き身の刀を隠し持っていたという逸話が残るほど、両者の間には極限の緊張関係がありました。 慶長4年(1599年)、利家が62歳で病死すると、その直後に武断派による石田三成襲撃事件が起き、時代は一気に「関ヶ原の戦い」へと転がり落ちていきました。利家の死は、豊臣政権崩壊の決定的な引き金となったのです。

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