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「天の犬」なのに、犬の面影が見当たらない
「天の犬」と書いて、天狗。文字だけを見れば、犬の妖怪を想像したくなります。しかし、おなじみなのは赤い顔に長い鼻の山伏姿か、鳥のくちばしを持った烏天狗です。
……いや、犬はどこへ行ったのでしょうか。
中国では、流星を「天狗」と捉える考えがありました。一方、日本で語られる天狗には、鳶や鷲の姿になって人をさらい、仏道修行を妨げる存在という顔があります。同じ名前でも、空の現象と山の妖怪では、ずいぶん印象が違います。
鼻の高い天狗が広くおなじみになるのは江戸時代。鼻高の姿には、王舞や猿田彦など、芸能で使われる面との関わりも指摘されています。ただし「犬が鳥になり、最後に鼻の長い人へ進化した」という一本の系譜ではありません。天狗のイメージの成り立ちは、もっと複雑です。
名前には犬、姿には鳥、顔には長い鼻。同じ「天狗」の看板の下に、かなり違う顔ぶれが同居しています。自己紹介を名前だけで済ませるには、少々無理のある妖怪です。



