立石寺

りっしゃくじ

立石寺

Photo: Cp9asngf / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

立石寺|信長に焼かれた比叡山を蘇らせた「バックアップ」と、死者の魂が集まる奇岩の山

山形県山形市にある立石寺(りっしゃくじ)、通称「山寺」は、貞観2年(860年)に清和天皇の勅願によって慈覚大師円仁が開山した天台宗の巨刹です。松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」という有名な名句を詠んだ場所として、連日多くの観光客が1015段の石段を登って絶景を目指します。 しかし、観光地としての爽やかなイメージとは裏腹に、立石寺には東北地方特有の「死者の霊が集まる山」としての恐ろしくも神聖な信仰が根付いています。 さらに、織田信長による比叡山焼き討ちという日本仏教最大の危機において、この立石寺が果たした「ある決定的な役割」をご存知でしょうか。それはまるで、現代のITシステムにおける完璧な「バックアップサーバー」のような機能でした。奇岩が連なる異界の山寺が抱える、生と死、そして炎のミステリーを紐解きます。

基本情報

名称
立石寺(りっしゃくじ / 通称:山寺)
読み
りっしゃくじ / 通称:山寺
所在地
山形県山形市
創建
貞観2年(860年)伝
宗派
天台宗
本尊
薬師如来
主な見どころ
「悪縁切り」の信仰が根強く、カップルで行くと別れるという都市伝説もある
ゆかりの人物
松尾芭蕉
恐山と並ぶ霊場。髪の毛や歯を奉納する「死者の山」Photo: Chi King / Wikimedia Commons / CC BY 3.0

01

恐山と並ぶ霊場。髪の毛や歯を奉納する「死者の山」

立石寺の石段を登り始めると、周囲の巨大な奇岩や岩肌に無数の卒塔婆(そとば)が立てかけられ、岩の隙間に古い硬貨がねじ込まれている異様な光景を目にします。 古くから東北地方において、立石寺は青森の恐山と並ぶ「死者の魂が集まる場所」として信仰されてきました。「山の神仏が死者の魂を浄化してくれる」と信じられており、現在でも遺族が故人の遺髪や歯などの一部を持参して岩の隙間に納める「ムカサリ絵馬」や「遺品奉納」の風習が残っています。 松尾芭蕉が感じた「閑さ(しずかさ)」とは、単なる自然の静寂だけではなく、死者の魂がひしめき合う岩山が発する、異界の張り詰めた空気感(霊気)だったのかもしれません。

織田信長に焼かれた比叡山の火を蘇らせた「バックアップ」

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織田信長に焼かれた比叡山の火を蘇らせた「バックアップ」

立石寺の根本中堂には、「不滅の法灯(ふめつのほうとう)」と呼ばれる火が安置されています。これは開山の際、天台宗の総本山である比叡山延暦寺から分け与えられた火であり、千年以上もの間、油を絶やすことなく燃え続けているとされています。 元亀2年(1571年)、織田信長による「比叡山焼き討ち」によって、延暦寺の本山にあった不滅の法灯は、堂宇もろとも完全に消滅してしまいました。信長の死後、延暦寺が再建された際、失われた火をどうやって復活させるかが大問題となりました。 その時、白羽の矢が立ったのがこの山形の立石寺です。かつて比叡山から分けられた火が、遠く離れたみちのくの地でひっそりと守り抜かれていたのです。立石寺の火は京都の比叡山へと「逆輸入」され、総本山の不滅の法灯は見事に復活を遂げました。まさに、メインサーバーが物理破壊された後に、遠隔地のバックアップデータからシステムを完全復旧させたような、歴史的かつ奇跡的なファインプレーでした。

芭蕉が聞いた「蝉」はどの蝉か? 文学者と昆虫学者の論争Photo: unknown 18-19th century / Wikimedia Commons / Public domain

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芭蕉が聞いた「蝉」はどの蝉か? 文学者と昆虫学者の論争

立石寺といえば、松尾芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」です。元禄2年(1689年)の『奥の細道』の旅で詠まれたこの句はあまりにも有名ですが、昭和の初期、「芭蕉が聞いた蝉の種類は何か」をめぐって、日本の文化人を二分する大論争(蝉論争)が巻き起こりました。 歌人の斎藤茂吉は「アブラゼミである」と主張し、文学者の小宮豊隆は「ニイニイゼミである」と反論しました。アブラゼミの「ジリジリ」という暑苦しい声が岩に染み入るのか、それともニイニイゼミの「チー」という金属音的な声なのか。 決着をつけるため、実際に芭蕉が訪れたのと同じ7月下旬の時期に実地調査が行われました。その結果、その時期の山寺の環境で鳴いているのは「ニイニイゼミ」であることが昆虫学的にも証明され、小宮の説が勝利しました。一つの俳句が残した謎が、後世の学者たちを巻き込んで実地検証にまで発展した、山寺にまつわる文学ミステリーです。

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