三井寺

おんじょうじ

三井寺

Photo: 663highland / Wikimedia Commons / CC BY 2.5

三井寺|三人の天皇の産湯となった霊泉と、焼き討ちから何度も蘇った「不死鳥の寺」

滋賀県大津市に所在する三井寺(みいでら)は、正式名称を長等山園城寺(ながらさんおんじょうじ)といい、天台寺門宗(てんだいじもんしゅう)の総本山として絶大な規模を誇る寺院です。琵琶湖を見下ろす広大な境内には、国宝の金堂をはじめとする数多くの歴史的建造物が立ち並んでいます。 この寺院の歴史は、決して平穏なものではありませんでした。すぐ北に位置する比叡山延暦寺(山門)との長きにわたる激しい宗教対立によって幾度も堂宇を焼き払われ、さらに豊臣秀吉からは突然の所領没収という過酷な弾圧を受けています。 しかし、その度に時の権力者や人々の支援を受けて見事に復活を遂げてきたことから、三井寺は「不死鳥の寺」とも呼ばれています。天皇の誕生にまつわる清らかな霊水と、武蔵坊弁慶の伝説が残る傷だらけの梵鐘など、激動の歴史を物理的に体感できる特異な歴史空間です。

基本情報

名称
園城寺(おんじょうじ / 通称:三井寺)
読み
おんじょうじ / 通称:三井寺
所在地
滋賀県大津市
創建
天武天皇15年(686年)伝
宗派
天台寺門宗(総本山)
本尊
弥勒菩薩
主な見どころ
比叡山との抗争で何度も焼き討ちに遭い、弁慶が引きずったとされる傷だらけの鐘がある
ゆかりの人物
武蔵坊弁慶(伝承)
「三井寺」の名の由来となった三帝産湯の霊水

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「三井寺」の名の由来となった三帝産湯の霊水

三井寺の正式名称は「園城寺」ですが、一般的には三井寺の名で広く親しまれています。この呼び名の由来は、金堂のすぐ脇にある「閼伽井屋(あかいや)」と呼ばれる小さな建物の内部にあります。 この建物の岩間からは、古くから清らかな霊泉が湧き出しており、天智天皇、天武天皇、持統天皇という三人の天皇が誕生した際、この水が産湯(うぶゆ)として用いられたと伝えられています。そこから「御井(みい)の寺」と呼ばれるようになり、転じて「三井寺」という通称が定着しました。 現在でも閼伽井屋の格子越しに、ポコポコと音を立てて湧き出し続ける霊泉の様子を見ることができます。建物の正面上部には江戸時代の彫刻職人・左甚五郎の作と伝わる龍の木彫りがあり、夜な夜な琵琶湖へ水を飲みに抜け出したため目に釘を打たれたという伝説も残るなど、水に対する深い信仰が息づいています。

傷だらけの姿で残る「弁慶の引き摺り鐘」の伝説Photo: Hyppolyte de Saint-Rambert / Wikimedia Commons / CC BY 4.0

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傷だらけの姿で残る「弁慶の引き摺り鐘」の伝説

境内の霊鐘堂(れいしょうどう)には、表面に無数の擦り傷やひび割れがある古い梵鐘が安置されています。これが、有名な「弁慶の引き摺り鐘」です。 平安時代以降、三井寺(寺門)と比叡山延暦寺(山門)は、同じ天台宗でありながら血みどろの抗争(山門寺門の抗争)を繰り返していました。伝承によれば、延暦寺の僧兵であった武蔵坊弁慶が三井寺を攻め落とした際、戦利品としてこの鐘を比叡山まで引き摺り上げました。しかし、鐘を撞くと「イノー、イノー(関西弁で『帰りたい』)」と響いたため、激怒した弁慶が鐘を谷底へ投げ捨てたとされています。 鐘に残る生々しい傷や破損は、実際にはこの弁慶の伝説によるものではなく、延暦寺との度重なる武力衝突の際に略奪され、打ち捨てられた歴史的痕跡であると考えられています。伝説の衣を被ってはいますが、中世における宗教勢力同士の苛烈な戦争の現実を物語る、第一級の証拠品です。

秀吉の突然の弾圧と、ねねによって再建された国宝・金堂Photo: Daderot / Wikimedia Commons / CC0

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秀吉の突然の弾圧と、ねねによって再建された国宝・金堂

三井寺の歴史において最大の危機は、文禄4年(1595年)に豊臣秀吉によって下された突然の「闕所(けっしょ=寺領の没収と廃寺の命令)」です。明確な理由は現在も歴史の謎とされていますが、寺の全財産が没収され、本尊をはじめとする仏像は他寺へ移され、堂宇は強制的に解体・移築されて全山が事実上の消滅状態に追い込まれました。 しかし秀吉の死後、正室の北政所(ねね)が三井寺の復興に尽力します。ねねは自身の化粧料(領地)を寄進し、慶長4年(1599年)に現在の本堂である「金堂」を見事に再建しました。 この金堂は、桃山時代の豪壮な建築様式を今に伝える建造物として国宝に指定されています。権力者の理不尽な命令によって一度は完全に命脈を絶たれながらも、数年後には壮麗な姿を取り戻すという、まさに「不死鳥の寺」の象徴とも言える堂宇です。

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