日光山輪王寺

にっこうざんりんのうじ

日光山輪王寺

Photo: UNKNOWN / Wikimedia Commons / Public domain

日光山輪王寺|明智光秀の影がちらつく天海僧正の結界と、死してなお家康に仕える「大猷院」

栃木県日光市にある日光山輪王寺(にっこうさんりんのうじ)は、日光東照宮、日光二荒山神社とともに「日光の社寺」として世界遺産に登録されている天台宗の門跡寺院です。奈良時代に勝道上人(しょうどうしょうにん)によって開山された古い歴史を持ちますが、江戸時代に徳川家康のブレーンであった天海僧正(てんかいそうじょう)が住職となって以降、幕府の強力な宗教的拠点へと変貌を遂げました。 この輪王寺の歴史の裏には、日本の歴史ミステリーの中でも最大級の都市伝説である「天海=明智光秀説」の影が色濃く落ちています。 さらに、第三代将軍・徳川家光の霊廟である「大猷院(たいゆういん)」の建築構造には、祖父である家康に対する家光の異常なまでの執着と敬愛が立体的に表現されています。風水と呪術、そして為政者たちの情念が渦巻く日光山の深奥を紐解きます。

基本情報

名称
日光山 輪王寺
読み
にっこうざん りんのうじ
所在地
栃木県日光市山内2300
創建
天平神護2年(766年) 勝道上人による
宗派
天台宗
本尊
阿弥陀如来、千手観音、馬頭観音(三仏堂)
主な見どころ
三仏堂、大猷院(家光霊廟)、宝物殿
ゆかりの人物
勝道上人、徳川家康、徳川家光、天海
蛇の橋を渡って開かれた聖地と「三仏」の秘密Photo: Zairon / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

01

蛇の橋を渡って開かれた聖地と「三仏」の秘密

日光山の歴史は、天平神護2年(766年)、勝道上人が大谷川(だいやがわ)の激流を渡ってこの地を開いたことに始まります。伝説によれば、激流で川を渡れずにいた勝道上人の前に深沙大王(じんじゃだいおう)が現れ、2匹の巨大な蛇を放つと、それが橋(現在の神橋のルーツ)に変化して渡ることができたとされています。 輪王寺の本堂である巨大な「三仏堂」には、阿弥陀如来、千手観音、馬頭観音という3体の黄金の巨大仏が並んで安置されています。これは単に三種類の仏を並べたものではありません。日光の三つの霊山(男体山、女峰山、太郎山)の神々が、それぞれ仏の姿になって現れた(本地垂迹説)ものとされています。 古くからの山岳信仰の神々を、仏教の巨大な仏像システムの中に組み込むことで、輪王寺は日光連山全体を支配する宗教的な中枢として君臨しました。

天海僧正=明智光秀説を匂わせる日光の暗号群Photo: Kimura Ryōtaku (Inscription by Tenkai) / Wikimedia Commons / Public domain

02

天海僧正=明智光秀説を匂わせる日光の暗号群

江戸時代、輪王寺(当時は満願寺)の住職として日光山全体を現在の姿にプロデュースしたのが、徳川家康の黒衣の宰相と呼ばれた天海僧正です。この天海には、「本能寺の変の後、生き延びた明智光秀が名を変えた姿ではないか」という有名な都市伝説が存在します。 日光山内には、この伝説を補強するかのような奇妙な符号がいくつも存在します。例えば、日光東照宮の陽明門を守る武将の袴の柄や、彫刻の意匠に、明智家の家紋である「桔梗紋(ききょうもん)」に酷似したデザインが隠されている点。また、日光山内にある「明智平(あけちだいら)」という地名は、天海自身が名付けたと記録されています。 天海の前半生の記録が不自然なほど存在しないことや、彼が100歳を超える異常な長寿であったことも謎を深めています。江戸の鬼門を守る呪術的な仕掛けを構築した天才プロデューサーの正体が、かつての謀反人であったとするならば、輪王寺の荘厳な空間は全く違った意味を帯びてきます。

「家康公を見下ろしてはならない」家光の異常な執念Photo: DXR / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0

03

「家康公を見下ろしてはならない」家光の異常な執念

輪王寺の境内奥深くには、第三代将軍・徳川家光の墓所である「大猷院(たいゆういん)」があります。家光は祖父である家康を神(東照大権現)として狂信的なまでに敬愛しており、死に臨んで「死後も家康公のそばでお仕えしたい」という遺言を残しました。 この遺言に従って造営された大猷院は、国宝指定の極めて豪華な建築群でありながら、東照宮を絶対に上回らないように、意図的に彩色を黒や金を基調とした「控えめ(重厚)」なトーンに抑えられています。 さらに決定的なのは建物の「向き」です。大猷院の本殿は、東照宮の方向を向いて建てられています。つまり家光は、自らの魂が眠る建物を祖父の墓所へ向けて固定することで、死してなお、永遠に家康へ向かって平伏し続ける構造を造り上げたのです。将軍の権威と、血族に対するオカルト的なまでの狂気が生み出した、類まれな霊廟建築です。

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