宝生院(大須観音)

ほうしょういん(おおすかんのん)

宝生院(大須観音)

Photo: Asturio Cantabrio / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

宝生院|徳川家康が町ごと移転させた霊場と、国宝『古事記』を空襲から守り抜いた「地下書庫」

愛知県名古屋市中区の大須商店街に建つ宝生院(ほうしょういん)、通称「大須観音」は、真言宗智山派の別格本山です。なごや七福神の一つである布袋尊を祀り、連日多くの参拝者と買い物客で賑わう名古屋下町の中心的な存在です。 もともとこの寺院は名古屋ではなく、現在の岐阜県羽島市大須にありました。それを慶長17年(1612年)、徳川家康の命によって名古屋城下へ「町ごと」移転させられたという巨大な都市計画の歴史を持っています。 また、この寺院の最大のミステリーは、境内にひっそりと存在する「大須文庫」です。ここには、現存する日本最古の『古事記』の写本(国宝)をはじめとする約一万五千巻の古典籍が収蔵されています。名古屋大空襲で本堂が灰燼に帰したにもかかわらず、これらの書物が無傷で生き延びた背後には、住職による執念の「地下シェルター」建造の歴史がありました。

基本情報

名称
宝生院(通称:大須観音)
読み
ほうしょういん(おおすかんのん)
所在地
愛知県名古屋市中区大須2丁目21-47
創建
元亨4年(1324年)
宗派
真言宗智山派
本尊
聖観音菩薩
主な見どころ
本堂、大須文庫(非公開)、大須商店街(周辺)
ゆかりの人物
能信上人、徳川家康
徳川家康の都市計画「大須越」で町ごと引っ越した寺院Photo: Gnsin / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0

01

徳川家康の都市計画「大須越」で町ごと引っ越した寺院

宝生院(大須観音)は、元弘3年(1333年)に後醍醐天皇の勅願により、尾張国中島郡大須庄(現在の岐阜県羽島市)に創建されました。しかし、江戸幕府を開いた徳川家康は、名古屋城の築城に伴う城下町の整備計画において、この由緒ある寺院に目を付けました。 慶長17年(1612年)、家康の命により、宝生院は寺の堂宇だけでなく、周辺に住む人々や町全体を巻き込んで、現在の名古屋市中区へと大規模な移転を行いました。これは「大須越(おおすごし)」と呼ばれ、名古屋の城下町を水害から守り、同時に宗教的な結界(南の守り)を構築するための強引かつ合理的な都市計画でした。 現在、日本有数の規模を誇る「大須商店街」は、家康によって強制的に移住させられた大須観音の門前町がそのまま発展して形成されたものです。

国宝『古事記』最古の写本がなぜ名古屋に眠るのか?

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国宝『古事記』最古の写本がなぜ名古屋に眠るのか?

大須観音の奥深くにある「大須文庫(おおすぶんこ)」には、日本の神話と歴史を記した『古事記』の、現存する中で最も古い写本(真福寺本古事記・国宝)が所蔵されています。 なぜ、朝廷のある京都でもなく、幕府のある江戸でもない名古屋の寺院に、日本の最高機密とも言える古代の歴史書が眠っていたのでしょうか。それは、室町時代にこの寺の僧侶が、京都の建仁寺などの学問寺と深い交流を持ち、戦乱の絶えない京都から貴重な書物を次々と写し取って、安全な大須の地へ疎開させるように集め続けたためです。 大須文庫は、日本の古代から中世にかけての知的遺産が、戦火を逃れて吹き溜まった奇跡の「ブラックボックス」として、現在も国文学や歴史学の研究において計り知れない価値を持っています。

空襲を予言した? 太平洋戦争前に造られた「地下コンクリート書庫」

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空襲を予言した? 太平洋戦争前に造られた「地下コンクリート書庫」

昭和20年(1945年)の名古屋大空襲によって、大須観音の本堂をはじめとする境内の大部分は焼失しました。しかし、国宝『古事記』を含む大須文庫の一万五千巻の古典籍は、全くの無傷で終戦を迎えました。 この奇跡の裏には、一種の都市伝説のように語り継がれる住職の執念があります。太平洋戦争が激化する前の段階で、当時の関係者たちは「いずれ名古屋も焼け野原になる」という危機感を抱き、極秘裏に境内の地下に強固なコンクリート製の地下書庫(シェルター)を建造し、すべての書物をそこへ隠していたのです。 周囲が火の海になり、寺自体が灰になっても、地下のコンクリート壁に守られた古代の記憶だけは生き残りました。現在私たちが最古の古事記を読むことができるのは、戦火を予見して地下へ文化財を埋めた、当時の人々の冷徹な判断の賜物なのです。

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