松本城

まつもとじょう

松本城

Photo: Douglas P Perkins (Douglaspperkins) / Wikimedia Commons / Public domain

松本城|ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」

松本城を、ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」という切り口から読み直します。一般的な城の概要を並べるのではなく、この城でしか成立しない出来事と、現在の姿とのずれを入口にします。

基本情報

名称
松本城(まつもとじょう)
読み
まつもとじょう
別名
深志城(ふかしじょう)
所在地
長野県松本市丸の内
築城時期
永正年間(1504〜1520年)に小笠原氏一族が深志城を築いたとされる
築城者
小笠原氏一族(深志城)、石川数正・康長父子(近世城郭整備)
現在の城郭
1593〜1594年ごろ、石川数正・康長父子の時代に築かれた
文化財・指定
国宝

この記事では、松本城の見どころを「ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」」から三つの場面に分けて追います。各Sectionでは、固有の事実がなぜ意外で、城の見方をどう変えるのかを確認します。

01

ガチ要塞に「お月見部屋」をくっつけた

ガチ要塞に「お月見部屋」をくっつけたを、ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」の中の具体的な場面として見ます。

松本城の大天守は、かなり本気です。 壁には鉄砲や矢を撃つための「狭間(さま)」が並び、石を落とすための設備もあります。 敵からすれば、 「できれば近づきたくない建物」 です。 ところが、そのガチガチの要塞の横を見ると、ちょっと雰囲気の違う建物がくっついています。 「月見櫓(つきみやぐら)」です。 名前のとおり、 月を見るための優雅な空間。 戦国時代が終わって世の中が平和になってから、3代将軍・徳川家光を迎えるために増築されました。 それまで、 「敵が来た!」 を想定していた城に、 「将軍が来るぞ!」 という別のイベントが発生したわけです。 しかも松本城公式によると、この月見櫓には 戦うための備えがほとんどありません。 ガチ要塞の横に、突然のお月見スペース。 戦車にサンルームを増築したようなギャップです。 そして、ここからが少し残念。 せっかく将軍を迎えるために作ったのに―― 家光、松本に来ませんでした。 戦う予定もない。 将軍も来ない。 でも月見櫓は残った。 おかげで今では、戦国時代の「戦う城」と、江戸時代の「平和な城」を一度に見ることができます。 松本城へ行ったら、大天守だけでなく横の月見櫓も見てください。 急に平和になった感じがすごいです。

ガチ要塞に「お月見部屋」をくっつけた

ガチ要塞に「お月見部屋」をくっつけた

Photo: Wikimedia Commons

はの門へ続く登城路と姫路城の天守

Photo: そらみみ / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

02

角度61度。階段というより、かなり壁

角度61度。階段というより、かなり壁を、ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」の中の具体的な場面として見ます。

松本城へ行った人が、かなりの確率で記憶に残すもの。 それが、 階段です。 「国宝なのに階段?」 と思うかもしれません。 でも、実際に登れば分かります。 かなり急です。 場所によっては最大斜度が約61度。 階段というより、かなり壁寄りです。 しかも段差が大きいところもあります。 現代の住宅でこんな階段を作ったら、 「ちょっと待って」 となりそうですが、ここは戦国時代の天守です。 当然、エレベーターもエスカレーターもありません。 「敵を登りにくくするために、わざと急にしたの?」 と思いたくなりますが、理由をそれだけで説明することはできません。 天守の限られた空間の中に階段を配置しなければならなかったことなども関係しています。 理由はともかく。 400年以上たった現在、この階段と戦っているのは―― 敵兵ではなく観光客です。 写真で見るだけでは、この角度はなかなか伝わりません。 現地で下から見上げると、 「これ、上るんですか?」 となります。 上ります。

角度61度。階段というより、かなり壁

角度61度。階段というより、かなり壁

Photo: Wikimedia Commons

はの門へ続く登城路と姫路城の天守

Photo: そらみみ / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

03

「呪いで城が傾いた」←原因はもっと現実的でした

「呪いで城が傾いた」←原因はもっと現実的でしたを、ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」の中の具体的な場面として見ます。

昔の松本城は、実際に傾いていました。 写真でも分かるくらいです。 そこで生まれたのが、ちょっと怖い話。 江戸時代に起きた「貞享騒動」で処刑された多田加助の呪いによって、松本城が傾いた――という伝説です。 処刑される前に加助が松本城をにらみつけると、天守が傾いた。 ……という、ものすごくドラマチックな話です。 ところが。 後に城を詳しく調べてみると、天守を支えていた部分には 長い年月による傷みや、柱の腐食などの問題 がありました。 つまり、 呪いより先に、建物として普通に大変なことになっていました。 しかも「加助の呪いで城が傾いた」という話自体も、事件当時からそのまま伝わってきた話ではなく、後の時代に広まった伝説とされています。 怖い怪談を追いかけていったら、 最後に出てきたのが建物の老朽化。 急に現実的です。 現在の松本城は修理され、きれいに立っています。 だから昔の傾いた写真を見てから現地へ行くと、 「ちゃんと真っすぐになってる」 という、妙な感動があります。

「呪いで城が傾いた」←原因はもっと現実的でした

「呪いで城が傾いた」←原因はもっと現実的でした

Photo: Wikimedia Commons

はの門へ続く登城路と姫路城の天守

Photo: そらみみ / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

04

城を守ってほしければ、毎月500kgの米

城を守ってほしければ、毎月500kgの米を、ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」の中の具体的な場面として見ます。

急な階段をがんばって上り、天守の最上階までたどり着いたら、天井付近を見てください。 そこには「二十六夜神(にじゅうろくやしん)」という神様が祀られています。 この神様には、かなり面白い伝説があります。 1618年の正月。 城を守っていた武士の前に、赤い袴をはいた美しい女性が現れました。 そして、 「私はこの城を守る神です」 と告げます。 ここまでは神秘的です。 問題は、そのあと。 城を守る代わりに、 毎月26日の夜に、3石3斗3升3合3勺の米を炊いて供えなさい。 と告げたと伝えられています。 その量、 約500kg。 多い。 かなり多い。 城を守ってもらうにも、相当な量のお米が必要です。 そして城主側も、このお告げを大切にしたと伝えられています。 さらに後の時代、本丸御殿が火事で焼けたときにも天守は残りました。 そこで、 「二十六夜神が守ってくれたのでは?」 という話につながっていきます。 もちろん、これは伝説です。 でも松本城の最上階には、現在も二十六夜神が祀られています。 つまり現地へ行けば、 「毎月500kgの米を要求したと伝わる神様」 に実際に会えます。 急な階段を登り切った先にいるので、ありがたみもかなりあります。

城を守ってほしければ、毎月500kgの米

城を守ってほしければ、毎月500kgの米

Photo: Wikimedia Commons

はの門へ続く登城路と姫路城の天守

Photo: そらみみ / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

05

未来の国宝、235両で売られる

未来の国宝、235両で売られるを、ガチ要塞に増築された「防御力ゼロの宴会場」の中の具体的な場面として見ます。

現在の松本城は国宝です。 海外からもたくさんの人が見に来ます。 そんな松本城にも、 「もうなくなっていてもおかしくなかった時代」 がありました。 明治時代。 城としての役目を終えた松本城の天守は、競売にかけられます。 そして1872年。 235両(今の価値で言うと数千万円)で落札されました。 もちろん、この時点ではまだ国宝ではありません。 でも現在から見ると、 未来の国宝、普通に売られています。 しかも、建物が解体される可能性までありました。 かなり危ない。 そこで立ち上がったのが、地元の市川量造です。 「この城を残さなければ」 と、松本城の中で博覧会を開催。 人を集め、その収益などを使って天守を守るために動きました。 今なら、 「国宝を守ろう」 と言えば多くの人が納得します。 でも当時は、まだ国宝でもありません。 価値が決まってから守ったのではなく、 「これ、なくしたらマズくない?」と先に気づいた人たちがいた。 そのおかげで、松本城は残りました。 月見櫓も残った。 61度の階段も残った。 二十六夜神も残った。 そして現在では、世界中から人がやって来ます。 明治時代に解体されていたら、全部ありませんでした。 そう考えて松本城を見ると、 235両で売られた城が、よくここまで来たな。 と、ちょっと見る目が変わります。

未来の国宝、235両で売られる

未来の国宝、235両で売られる

Photo: Wikimedia Commons

はの門へ続く登城路と姫路城の天守

Photo: そらみみ / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

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